京都・宇治にお茶が伝わったのは、鎌倉時代のこと。
小高い山があり、土質にも恵まれた土地で育まれたお茶は、多くの天下人を魅了しました。豊臣秀吉もその一人です。
秀吉は、当時すでに高級茶だった「宇治」のブランドを守り、
そして宇治川の澄んだ水で点てられたお茶を、こよなく愛していました。
修学旅行以来の宇治散策ですが、あのときとは違う目線で、町と人と触れ合えるのが楽しみです。
宇治を訪れたときは、4月の中旬。
収穫の時期よりも、1か月ほど早いタイミング!
茶畑には、黒いシートで覆われているものがちらほら。
あれは何だろう?
「気温が温かくなってきても、まだ宇治の朝は霜がおりるから、このシートで大事な茶葉を守っているんですよ」
そう教えてくれたのは、生産農家のかた。
よく見てみると、緑の葉っぱの間から、黄緑色の若い芽が出てきています。
まだまだ小さく、育っている途中・・・
この芽に霜があたると、黒くなって、成長も止まってしまうんです!シートが黒いのは、太陽からお茶の木を隠して、光合成させないようにするため。
そうすることで、茶葉のうま味の成分が、渋味に変わらず茶葉に残り、お茶をおいしくしてくれるそうです。
今は収穫前の、一番気を引き締めなければいけない時期なのです。
茶葉をおいしく育てるには、何よりも畑の「土づくり」が大切。農家はそれぞれ、自分の畑に合った肥料の配合を特注しているんです。そのことを実感したのは、畑に足を踏み入れたとき。土があまりに、フカフカでびっくりした。
まるで太陽の光を吸い込んだ、お布団のような柔らかさです。
「子供のころから畑の手伝いをして、父の背中を見てきました。土づくりを自分なりに工夫してみたけど、うまくいかないことも多くて・・・
時代に合わせて変えていくこともあるけれど、代々受け継がれてきた肥料には、変わらない良さがあったんです。」
お茶の木は、新しい苗を植えてから、茶葉が収穫できるまで育つのに、4・5年もかかってしまいます。
また、気候の変化や土の手入れなど、茶畑を守っていくには、深い知識と技術が必要。そのため、茶畑は親から子へ、
そして次の世代へとバトンが渡されているようです。
「若い人たちとも、よく情報交換をしているんですよ。
あの肥料がよかったよとか、こうすれば虫除けになったよとか。
みんなで茶畑を守っていこう、よくしていこうという気持ちがあるんだと思います。」
みんなの愛情でぐんぐん育った茶葉が、おいしくないわけがない!
摘採とはお茶摘みのことで、機械と手の2種類があります。きれいにカマボコ型に整っているのが、機械摘み。ぼこぼこ枝が生えているのが手摘みの畑です。
蒸した茶葉は、水分を多く含んでおり、高温のまま放置すると、色・香りが悪くなってしまいます。そのため、葉全体に風があたるように、高く吹き上げて冷まし、葉が折れたり、かさなったりしないように、わざと高いところから落とします。
まだ水分が残っている茶葉のくきや葉脈などを、乾燥した茶葉から切り取ります。そして、乾燥が十分でないものは再び乾かします。
摘採したばかりの茶葉を、かき回しながら、約20秒で蒸します。
葉の中の酸化酵素の動きを止めることで、茶葉をあざやかな緑色に保ちます。
細長い乾燥機の中に、冷ました茶葉を入れ、200度の熱風で30分ほど乾燥させます。
この乾燥機は碾茶炉といわれ、中は何層ものキャタピラが動いています。ここで乾燥すると、炉の中の独特な香りが葉につきます。
お茶摘みの方法は2種類ありますが、実は、茶葉の収穫の回数が違うことは知っていますか?
機械摘みは春と初夏の2回収穫しますが、手摘みの茶畑は、一番茶しかお茶摘みしません。
農家のかたが丹念につくった土の栄養を、幹や枝にいっぱい蓄えることができるので、さらにおいしい新芽が育つのです!
「宇治茶」と一言でいっても、実はいろいろな種類があります。
宇治には川沿い、山間、平地など様々な環境があり、それぞれの茶畑によって味、色、香りが異なります。
またその年の気候によって風味が変化するため、同じ茶畑でも、毎年同じものがとれるとは限りません。
そこで辻利一本店のような茶屋が、代々守ってきた配合技術で、お茶の風味を整えます。
辻利一本店の抹茶は、想像していた味よりも、少し薄い。
しかし、口に含むと香ばしさが香り、のどを通るとどこからか甘さを感じます。
辻社長はこう話しています。
「父から性合(しょうあい)を大切にしなさいと教わりました。性合とは、品がいい、欠点がないという意味ですが、抹茶の場合、素材本来の味を生かしなさいということ。
最近は、濃い味の食事が増えているから、
すこし大人しい味に感じるかもしれませんね。
正直、味・色・形が全てそろった茶葉はありません。
けれども、できるだけそろうような配合が大事。
そして、良いお茶を伝えていきなさい。そう父から受け継ぎました。」
茶葉を粉状にする、石臼挽きの作業場を見せてもらいました。
一列に整然とならんで、回っている石臼からは、目をこらさないとわからないような細かな緑の粒がこぼれます。
機械の中心の穴にブレンドした茶葉を入れると、下の石臼に落ちます。
石臼の断面には、溝が中央から放射線状に伸びています。茶葉は溝を通り、だんだんと外側へと押し出され、小さく小さく裁断されていきます。
しかし、溝は石臼のはしで途切れていました。
どうやら、細かくなった茶葉は、最後、石臼のはしの平らな面で引きちぎられるようです。
引きちぎられたお茶の粒は、表面がでこぼこになります。
すると、抹茶を飲んだとき、舌に粒がひっかかり、人はお茶の深い味わいを感じることができるのです。
150年以上にもわたって代々続けてこられたのは、千利休の説いた「守破離」の心を守ってきたから。
「基本は大事にしなさい。しかし、基本にばかりとらわれてはいけません。
基本は守った上で工夫をこらして、自分のものにしなさい。
そう、初代の心得を、祖父から何度も聞かされました。」宇治茶は昔から今に至るまで、
人の想いをつむいで生まれ変わり、私たちの元に届けられているようです。