昔ながらの街並みや文化がのこされている一方で、今どきのおしゃれで個性的なスポットも増えてきている金沢。
日本だけでなく、海外からの旅行者の人気も高まっている日本の古都には、どんな魅力があるのでしょう?
五郎島金時のふるさとをめぐる旅の第2弾では、金沢大学のポーランド人留学生アガタさんと一緒に、金沢の魅力を探しに出かけました。
茶の湯の文化が盛んだった金沢は、京都や松江とならぶ日本三大和菓子どころのひとつ。
季節を愛でる独特な和菓子の文化は、金沢の人々の暮らしにしっかりと根付いています。
五郎島金時を使ってどんな和菓子が生まれるのか、老舗の職人に教わりながら、和菓子作りを体験しました。
今回特別に、和菓子作りを教えてくださったのは、金沢のひがし茶屋街にある和菓子処「吉はし」の次男・吉橋太平さん。
作り置きはせず、お茶会などの事前注文でしか生菓子を買うことのできない、こだわりのスタイルを貫いている地元の人気店です。
この日は、新物の五郎島金時を使った贅沢な生菓子を教えていただきました。
お品書きは、秋の和菓子より、「錦秋」「菊」「きんとん」の3つ。
「錦秋」と「きんとん」にさつまいもを使い、「菊」は使わずに、さつまいもと小豆の味を比べてみることに。
今回は、先生が用意してくださった、さつまいもの生地、小豆のこしあんとつぶあん、紅白の練り切りを使って、季節の草花をイメージしながら、形作る作業をしました。
まず、紅葉する葉っぱをモチーフにした「錦秋」は、さつまいもとお餅を混ぜたたねを手のひらで優しく力を加えて葉っぱの形にし、こしあんの玉をくるんと包みます。三角棒を使って葉脈を刻んだらできあがり。
続いて「菊」は、紅白の練り切りを重ね、さらにつぶあんの玉も包み、指先で撫でるように円を描きながら、まるく形をととのえ、三角棒で花びら模様を描いていきます。
仕上げに、三角棒の凸凹の部分で、黄色い花の芯をちょこんとつけます。
最後に、さつまいもの「きんとん」は、さつまいものたねをこしきで細目のそぼろ状にします。それをこしあんの玉にお箸でくっつけていくというシンプルそうに見える作業ですが、これが意外とむずかしい!
先生はささっと軽やかな手さばきで、ふわふわのきんとんをしあげていくのに、自分でやろうとすると、そぼろを潰さずにしっかりとあんにくっつける力のさじ加減がなかなか掴めず、さつまいもがポロポロ落ちていく始末…。
日頃あまり意識することなく美味しくいただいている和菓子ですが、あの華やかな美しさの裏にある、職人技は計り知れないのでした。
五郎島金時を使った「錦秋」と「きんとん」は、小豆をつかった「菊」に比べて、甘みがやさしく、さっぱりした味わい。同じさつまいもでも、練り切りの「錦秋」はしっとりと、「きんとん」は口の中ですぐに溶けてしまうほど、柔らかなふわふわ食感でした。生クリームのケーキは、そんなにたくさん食べられないけれど、さつまいものきんとんなら2、3個はぺろりといけちゃいそうです(笑)
茶の湯の文化はもちろんのこと、自然が豊かで、四季の彩りを肌で感じられる金沢の街だからこそ、和菓子の伝統がしっかりと受け継がれているのだなとしみじみ感じた体験でした。
金沢21世紀美術館、兼六園、茶屋街、近江町市場…。観光名所がいくつもある金沢ですが、
暮らしてみて感じる居心地の良さもまた、この街のおおきな魅力のようです。
金沢で1年間の留学生活を過ごしたアガタさんに、外国人ならではの視点を聞いてみました。
金沢大学で日本語や日本文化を学んでいるポーランド人留学生。
趣味は美術館やカフェめぐり。抹茶やあんこなど、和菓子も大好き。
緑の多い、文化も豊かな金沢の街へ。
ーーアガタさんはどうして留学先に、東京や京都ではなく、金沢を選んだの?
ーー留学中はどんな暮らしをしているの?
金沢だったからこそ、たくさんの
地元の人との繋がりができた。
ーー1年間金沢に暮らしてみて、金沢の暮らしはどうだった?
ーー例えば、どんな人と知り合ったの?
ーーアガタさんに聞いて、里親プログラムというものを初めて知ったけれど、すごくすてきな制度だね。具体的には、里親とどんなことを一緒にしたの?
日本にも、家族のような
関係ができたことが、いちばんの幸せ。
ーーアガタさんは日本の暮らしにすっかり馴染んでいたようだね。この1年間の留学生活で、いちばんの思い出は?
ーー次に、また日本に来るとしたら、どの季節に来たい?
ーーたくさんお話を聞かせてくれて、どうもありがとう!アガタさんが好きになった金沢をぜひ、ポーランドの友だちにも伝えてあげてね。ありがとうございました。
大学がお休みの日は、金沢の街歩きを楽しんでいるというアガタさん。
ポーランド人の彼女の目に映る金沢は、
どんな魅力があるのでしょう?アガタさんの金沢お気に入りスポットに案内してもらいました。
初めに連れて行ってくれたのは、近江町市場のすぐそばにあるブックカフェ「OH!LIFE」。
外壁に書かれた、かわいらしいイラストと”美味しい本屋さん OH!LIFE”の文字が目印です。
まるで小さな図書館のような空間
壁一面の作りづけの本棚には、店主のコレクションである「食」に関する書籍がずらり。レシピ本から、食のエッセイや雑誌など。6席だけのイートインスペースでは、飲みものやスープ、自家製食パンを使ったトーストが楽しめます。 じつは店主はもともとパン屋さんや料理店で働いていたこともあり、こだわりの角食パンがお店のいちばん人気なのだとか!
北海道産小麦を使った、
プルマンのもっちり食感がたまらない。
アガタさんのおすすめはコーヒーとトースト。
おかず系のものや、フレンチトーストなどもありますが、この日はオニオングラタントーストを注文しました。
とろ〜りチーズと、しっかりとソテーされた玉ねぎの甘みがトーストに染み込まれて、至福のひとくち。このトーストを求めに、やって来るお客さんが少なくないというのも納得!
1人でもふらっと立ち寄れる
気軽さがうれしい
アガタさんはOH!LIFEを留学生の友達に教えてもらったそう。「友だちと来たり、1人で本を読んだり、コーヒーを飲みに立ち寄ったり。コーヒーも美味しいし、お店の雰囲気も気に入っています。」
本の温かさに包まれているのと、店主のお人柄もあわさって、外国人や観光客など、外の土地の人も入りやすい風通しの良さを感じるすてきなお店でした。
次に訪れたのは、せせらぎ通り。金沢駅東口からバスで10分。
デパートが立ち並ぶ香林坊のわき道を入ったところにあるせせらぎ通りは、鞍月用水が流れる通りの両側に、
ぽつんぽつんと個性的なカフェや雑貨が立ち並ぶエリアです。
水の流れる音が心地いい、香林坊の裏通り
平日の午後に訪れると、観光客はほとんどおらず、どこか情緒的でレトロな趣きがあるなか、ゆったりとした空気が流れていました。
路地をはいると、長町武家屋敷跡へ。
すぐそばにメインストリートがあるとは思えないほど、ひっそりとした裏通りで、さらさらと流れる水の音に癒されながら、のんびりお散歩が楽しめそうです。
金沢在住の外国人に人気のお店も
アガタさんはたまたま近くを散歩していて、せせらぎ通りを見つけたのだそう。
静かな雰囲気が気に入って、ときどき散歩に来ているようです。この通り沿いにあるネパール料理屋さん「アシルワード」のカレーがおいしくて、密かに地元の外国人に人気の店なのだと教えてくれました。
最後に、アガタさんが「金沢でいちばん好きな場所」として連れて行ってくれたのが、鈴木大拙館。
ZEN(禅)をはじめ、日本の文化を世界に広めた仏教哲学者・鈴木大拙の考えや足跡を紹介するミュージアム。
じつは、来場客のおよそ25%が外国人というほど、海外からの人気を誇るスポットでもあります。
静かな森に囲まれた、小さな禅のミュージアム
金沢駅からバスで15分。市街の中心からほど遠くない森のふもとにある鈴木大拙館。
慎ましいながら圧倒的な存在感を放つモダンな建物は、金沢とも縁の深い建築家の谷口吉生さんの設計です。
過去のものではなく、今を生きる鈴木大拙の考えを感じてもらえるように。
展示品の数は少なく、静寂に身をおいて思索する空間になっています。
心を無にして、風景と一体になれる場所
「ここにいると、ほんとうに心が安らぎます。」
ベンチに座って、ぼんやりと水面や外の自然を眺めるアガタさんは、とてもリラックスしている様子。鈴木大拙館にくると、大拙の教えの通り、心を無にして、自然や風景と一体になるようにしているのだそう。
「お茶の文化もそうだけれど、禅の考え方は、自分と一緒にいる相手と、いま目の前にあることに集中することでしょ。それはすごく日本的な発想で、ヨーロッパにはない考えだから、とても興味深いわ。」
緑の香りと、水のせせらぎ。
美術館のすぐ裏には森が広がり、中村記念美術館、石川県立美術館までは緑の小径で繋がっています。
一歩出ると自然に包まれ、この景色からはなれたくないと思ってしまうほど、平和な気持ちになれる場所でした。
禅のことはよく分からないという方も心配いりません。
忙しい日常をいったん外にして、美しい建物を眺めたり自然を感じながら、たまには頭を休めるのも良さそうですね。
五郎島金時が育つ金沢の大地。ポーランド人留学生のアガタさんの案内のもと、
古き良き日本文化が大切にされている金沢の魅力を再発見することができました。