「佐藤錦」が誕生したのは昭和3年。今から約90年も前に作られた、さくらんぼの代表品種。
生産者の愛情がたっぷり詰まった、小さくて麗しい果実を知るべく、
国内の「佐藤錦」の9割以上を生産する山形県を取材してきました。
最初に訪れたのは、さくらんぼの新品種の開発や栽培技術の開発を行う、山形県農業総合研究センター園芸試験場。
果樹部長の長岡さんによると、「さくらんぼは、「佐藤錦」を筆頭に、高級品として知られていますが、その理由は収穫などの手間ひまがかかるから。総栽培時間のうち、収穫や梱包が6割以上占め、実は他の果物に比べて2〜3倍も手間がかかる果実なんです」
試験場の「佐藤錦」の木の周りに設置されていたマメコバチの巣箱。さくらんぼは、別の品種の花粉が授粉しないと実らないため、マメコバチは「佐藤錦」の欠かせない大事なパートナー。授粉はハチのほか、人の手でも。
長岡さんがこの園芸試験場に勤め始めたのは約30年前。その当時の「佐藤錦」の糖度は12~13度。それが今や20度を超えるとか!「よりおいしくなるようにと栽培技術の改良は欠かせません。長年の成果ですかね」と笑顔で話す長岡さん。
また、園芸試験場長・佐藤さんからは「今作ろうとしているのは超大玉の品種。これができると新しいさくらんぼの魅力が生まれるでしょうね」と、「佐藤錦」のそう遠くない未来像もお聞きすることができました。
次に伺ったのは、「さくらんぼ」の農園を営むフルーツサトー・佐藤道幸さん(ちなみに山形県は“佐藤さん”が多い県だそう!)。
ちょうど、「佐藤錦」の花が満開。真っ白に咲く花を鑑賞しながら、生産に対する想いをお聞きしました。
「花が咲いてこれから収穫まで約2ヶ月。毎年実がちゃんとなるか心配なんですよね〜」と佐藤さん。
それは花が開くまでも同じだそうで、例えば気温が下がりすぎた早春の夜中には、火を焚いて、さくらんぼの樹を温めるそうです。
「さくらんぼってセンシティブな果実。だからこそ、毎年収穫まではとても気を使いますね。でも肥料やりや剪定など、手間をかけてあげればちゃんとおいしくなってくれる。だからこそ作りがいのある果実です」
佐藤さんにとって「佐藤錦」とは?とお聞きしたところ、少し考えたあと、とってもあたたかいエピソードを教えてくれました。
「毎年佐藤錦を注文をしてくれるお客さんがいて。その方がいつかさくらんぼ狩りをしたいとうちの畑に来てくれたことがあって。でもその方、さくらんぼ狩りをせずに、畑を見てるだけ。ただこの景色が見たかったんだ、と泣いていらっしゃったんです。うまく言えないけれど、見て美しい、食べておいしい一粒を一人でも多くの人に届けたい、そんな想いにさせてくれるのが佐藤錦という存在なのかもしれません」
苗木の植え付けは12月頃、もしくは3月頃に行います。この状態からさくらんぼの実がなるまで3~5年。遠い道のり!
マメコバチや人の手を借りて、別の品種の花粉を授粉。
濃く赤い色になったら収穫のタイミング。昼間と夜の寒暖差が大きければ大きいほど赤く甘い実になるのだとか。
桜とちがい、白い花を咲かせる「佐藤錦」。花と同時に葉も芽吹くのがさくらんぼの特徴。
花が散った後、めしべが膨らみ実に成長する。
花びらをとった後、花の中央にあるものがめしべ。このめしべの先端に別の品種がつくと授粉して実となる。花粉は同じ「佐藤錦」ではなく、「ナポレオン」など別の品種でなければならないそう!
山形のイケメンが集合!? 実は彼らは 佐藤さんをはじめ、同じ地区に住む20~30代の「佐藤錦」生産者たち約40人で構成される「西村山若手さくらんぼ研究会」。年に数回の行事などのほか、定期的に集まり、「佐藤錦」の栽培方法の講習会や、情報交換、別地区の生産者訪問など、山形の「佐藤錦」を盛り上げる担い手なんだとか。
「今、若手生産者は増えているのですが、その上の世代が僕らの祖父母世代となり、なかなか生産に対する素朴な疑問を聞けない。
そんな時に8年前から作ったこの研究会が、いい役割を果たしてくれている。この研究会があることで、佐藤錦の品質の統一や収穫量の安定化、さらには地域のコミュニティー作りにもなっているんじゃないかな」と話す、研究会会長の佐藤さん。
彼らの作る「佐藤錦」を早く食べたい!と期待が膨らみました。
今回の取材は4月下旬。さくらんぼの花が満開の時期!
さくらんぼの花ってとても綺麗なんですね。