新茶の収穫時、町はより一層活気づきます。
今回発見したのは、お茶によって育まれた、この土地ならではの文化。
昔から続くもの。現代から始まったもの。
どちらも「宇治茶を多くの人に広めたい」という皆の想いが根底にあるようです。
立春から数えて、八十八夜。この日に摘む新茶は縁起物とされています。私も地元の人たちと、茶摘み体験をしました。
新芽は触ると柔らかく、太陽にかざすと葉脈が透けるほどの繊細さです。茎は簡単に指で折れるので、ついつい採りすぎでしまうので注意。
「茶葉は天ぷらにしたり、醤油で煮込んで佃煮にしたりすると、美味しいのよ」
地元の方にとって、一年楽しみにしていた夕飯のメニューです。茎も歯ごたえあって美味しいのですが、おすすめは葉っぱの部分。噛むと確かに、お茶の甘みがほんのり感じられます。
「いっぱいとれた?」
茶葉を手一杯に抱え、満面の笑みを浮かべる少年。話しかけると、茶摘みのコツを教えてくれました。
なんでも、葉が開いていない芯芽と、その下の二枚葉がセットになっている「一芯二葉」は、お茶の中でも贅沢品だとか。
そんな素敵な彼から、茶葉のブーケをもらうサプライズが。
初の男性からの花束?に感激。
宇治抹茶をいただくため、宇治川沿いの対鳳庵(たいほうあん)に訪れました。ここの茶室では、本格的な茶席を体験できます。
茶室の奥に置かれた茶釜の隣、畳の縁から十六目が客人の席。
お点前とは「お茶をふるまうための作法」のこと。
先生の流れるような手つきで点てられた抹茶は、まろみがあり、舌に溶けます。お茶を通して培われた、日本人のおもてなしの心をいただきました。
茶歌舞伎は、足利将軍時代に始まった、五種類のお茶を飲み比べる競技。今回、グリコチームと辻利チームで対決しました。
シャッフルしたお茶を一杯ずつ飲み、どの品種かを当てます。ヒントをもらったものの、実際に飲むと、さっぱりわかりません…。
口に含んで、首をかしげて、もう一度味見。頭を抱える両チーム。
一杯配られるたびに、皆さんの眉間にしわが寄ります。
お茶を見分ける要素は、色・香り・味。お茶屋さんは、この3つで茶葉に値段をつけていきます。「私たちは100%当てられますよ」と話す、辻利一本店 社長・辻さん。意地悪な笑顔です。
答え合わせのたびに、一喜一憂する大人たち…。大名たちが夢中になるのもわかります。三回戦まで続いた対決は、僅差で辻利チームが勝利。「茶歌舞伎部を作ります」と悔しがるグリコさん。再戦はあるのでしょうか。
旅の最後に訪れたのは、宇治上神社。ここの本殿は平安時代後期に建立され、最古の神社として世界遺産に登録されました。
室町時代に、宇治茶に合う水として選ばれた宇治七名水。
その一つの桐原水が、今もこの神社に湧いています。
「毎朝この水を沸かして、お茶を飲むんです」と話すのは、宮司の宮原さん。山の恵みを運んできた水は別格のようです。
毎年6月1日に開催される献茶祭。宇治の山の上から下まである茶園の新茶が揃う時期に、多くの宇治茶の関係者が参列して、神事を見守ります。今年でもう21回目。
桐原水で点てられた煎茶を土地の神様に捧げ、新茶の収穫に感謝します。もともとは、宇治の茶道協会の方が「宇治抹茶を広めたい」という想いから生まれたもの。祝詞に宇治の明日への祈りが込められます。
「また宇治にきたいな」そう思えるのは、宇治の人々の温かさと文化に触れることができたから。
今度はどの季節の宇治に会いに来よう。
この旅を通じて、宇治マニアになれたのではないかと思います。